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東京高等裁判所 昭和51年(ネ)690号 判決 1978年4月17日

控訴人(被告)

田中正之

ほか一名

被控訴人(原告)

木村明雄

主文

一  本件控訴に基づき、原判決を次のとおり変更する。

控訴人らは各自被控訴人に対し七七一万六、七四八円及び内金七〇六万六、七四八円に対する昭和四九年一〇月二七日から支払いずみにいたるまで年五分の割合による金員を支払え。

被控訴人のその余の請求を棄却する。

二  本件付帯控訴を棄却する。

三  訴訟費用(控訴及び付帯控訴に関する分)は、第一、二審を通じてこれを一〇分し、その六を控訴人(付帯被控訴人)ら、その余を被控訴人(付帯控訴人)の負担とする。

四  この判決は、被控訴人(付帯控訴人)勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。

事実

(以下、控訴人(付帯被控訴人)を第一審被告、被控訴人(付帯控訴人)を第一審原告と称する。)

(申立)

一  第一審被告ら代理人は、「原判決中第一審被告ら敗訴部分を取り消す。第一審原告の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも第一審原告の負担とする。」との判決並びに付帯控訴(当審における請求拡張部分を含む。)につき、「本件付帯控訴を棄却する。付帯控訴により生じた訴訟費用は第一審原告の負担とする。」との判決を求めた。

二  第一審原告代理人は、控訴棄却の判決並びに付帯控訴(当審における請求拡張部分を含む。)につき、「原判決中第一審原告敗訴部分を取り消す。第一審被告らは各自第一審原告に対し金五一八万三、九〇〇円並びに内金一九〇万一、五四一円に対する昭和四九年一〇月二七日から及び内金三二八万二、三五九円に対する昭和五二年八月三一日から、各支払いずみにいたるまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも第一審被告らの負担とする。」との判決を求めた。

(主張)

当事者双方の事実上の主張並びに証拠の提出、援用および認否は、次のとおり付加、補正するほか、原判決の事実摘示と同一であるから、これを引用する(但し、原判決三枚目―記録一一丁―表四行目の「除行」とあるのを「徐行」と、原判決四枚目―記録一二丁―表三行目の「四八・四・一〇」とあるのを「四八・四・一」と、同九行目の「一一・二四」とあるのを「一一・四」と、同裏五行目の「吉田義肢整作所」とあるのを「吉田義肢製作所」と、原判決九枚目―記録一七丁―裏末行の「被告者」とあるのを「被告車」と、原判決一〇枚目―記録一八丁―表四行目の「運転車」とあるのを「運転者」と、それぞれ改める。)。

一  第一審原告代理人は、次のとおり述べた。

第一審原告は、本件事故により立美電機商会を退職し、現在注射針製造業を自営しているが、これも後遺症のため廃業を余儀なくされている。したがつて、本件事故による逸失利益を算定するにあたつては、最新の賃金センサスを基礎とすべきであり、昭和五一年度の賃金センサスによると、三九歳時の年収は、月収一九万二、二〇〇円の一二か月分と賞与六八万二、九〇〇円との合計二九八万九、三〇〇円である。第一審原告の本件事故による後遺症は、自動車損害賠償保障法施行令所定の障害等級六級に該当し、労働能力喪失率二七%とされても、右後遺症は永久に存続する見込みであり、右年収を基礎とし、六七歳まで二八年間に得べかりし収入の合計額からホフマン式複式算定法により、年五分の中間利息を控除して現価を算出すると、次のとおり一、三八九万九、三三九円となる。

2,989,300×27/100×17.2211=13,899,339

よつて、一審において逸失利益として認容された金額との差額にあたる五一八万三、九〇〇円につき、付帯控訴(一審における請求金額を超える部分は新たに請求を拡張するもの)により、その支払いを求める。

二  第一審被告ら代理人は、次のとおり述べた。

(一)  (治療費について)

治療費については、立美電機商会と第一審被告らとの間で、これをすべて自動車損害賠償保障法による保険金で賄い、第一審被告らはこれを負担しない旨の示談が成立している。

城野医師は、第一審原告の症状がこれ以上治癒しないことを知悉しながら、その依頼に応じて第一審原告を入院させたものであつて、その治療行為は明らかに過剰診療であるから、その治療費を第一審被告らが負担すべきものではない。

かりに、第一審被告らにおいて第一審原告に対する治療費支払義務を負うものとしても、第一審被告田中は、川上外科における治療費として八二万七、六二〇円、城野外科における治療費として六〇万円を支払い、その他の支払い分を含めれば、治療費は一切弁済されている。

(二)  (逸失利益について)

第一審原告の頸部の変形性背椎症の変化は、加齢的変化であつて、本件事故とは関係がなく、その他の症状も、本件事故が誘因となつたにせよ、主として加齢的変化であつて、その障害等級は一一級である。また、第一審原告の農業共済組合及び第一火災海上保険相互会社からの自動車損害賠償保険金各一六八万円の受給は、その障害等級が八級に該当することを前提としてなされたものである。したがつて、逸失利益の算定については、右の事情を考慮すべきであるのみならず、第一審原告の現在の注射針製造加工による収入純益は一か月一五万ないし二〇万円であつて、本件事故にあう前よりも多額の収入を得ているから、逸失利益はない筈であるが、かりにこれが認められるとしても、仕事内容からみて、労働能力喪失率は一〇%とするのが相当である。

(三)  (弁護士費用について)

第一審原告の代理人木村淑子と第一審被告会社及び立美電機商会との間で、昭和四八年五月一日、休業補償について第一審被告会社及び立美電機商会がそれぞれ一か月三万円づつ合計六万円を支払い、治療費について強制保険の保険金をもつて賄い、その不足分は立美電機商会が支払う旨の示談が成立し、その趣旨に従つて支払いがなされていたのであるから、当時予想されなかつた後遺症が残つたとしても、立美電機商会を交え、訴訟に及ぶことなく話し合いのつく可能性があつたのに、第一審原告代理人弁護士は、その機会も作らず、敢えて立美電機商会を除外し、第一審被告らのみを相手として本訴に及んだものであるから、本件において弁護士費用を請求することは許されない。

(四)  (請求の放棄について)

第一審原告は、昭和四九年一〇月一六日立美電機商会に対して、本件損害賠償請求につき、すでに同会社が支出した部分を超える部分を放棄しているから、第一審被告らとしては、自己の負担部分のみについて責に任ずればよいわけである。

(証拠)略

理由

一1  請求原因1の事実(交通事故の存在)は、第一審原告の傷害の部位程度を除き、当事者間に争いがない。

原審及び当審における第一審原告本人尋問の結果並びにこれにより成立を認める甲第一、第二及び第五号証によれば、第一審原告は右事故により腰背部挫傷、頸椎部捻挫及び第一〇胸椎圧迫骨折等の傷害を負つたことが認められる。

2  第一審被告らが右事故の加害車両の保有者であることは、当事者間に争いがない。したがつて、第一審被告らは、いずれも右事故による第一審原告の傷害に基づく損害を賠償する責任がある。

3(一)  原審における第一審原告本人尋問の結果により成立を認める甲第二ないし第八、第一〇、第一一号証、原審における証人大塩直文の証言及び第一審原告本人尋問の結果によれば、第一審原告は右傷害の治療のため、請求原因3(一)記載のとおり、川上外科、大塩整形外科医院及び城野外科にそれぞれ入通院し、吉田義肢製作所及び福島義肢製作所から胸椎用軟性コルセツト装具を購入し、それぞれ同項記載の治療費及び装具代を支払つたことが認められる。また入院中の雑費については、特にこれを証する資料はないが、一般に入院期間中は一日あたり五〇〇円程度の雑費を支出するのが通常と認められるから、本件においても、第一審原告は右入院期間中同程度の支出をしたものと推定され、結局第一審原告は、治療関係費として合計一五八万五、二〇〇円を支出し、同額の損害を蒙つたこととなる。

(二)  原審における第一審原告本人尋問の結果及びこれにより、成立を認める甲第一二、第一四ないし第一六号証によれば、第一審原告は、本件事故当時有限会社立美電機商会に勤務し、テレビジヨン、ルームクーラーの取付、修理等の業務に従事し、事故前三か月間である昭和四七年六月一日から同年八月三一日までの九二日間(第一審原告のいう九〇日間は誤算に基づくものである。)に、賞与を除き合計一八万〇、六〇〇円(一日平均一、九六三円)の賃金を得ていたが、右事故による傷害の治療のため昭和四七年九月一四日から昭和四八年一一月四日までの四一七日間右会社を欠勤し、日給月給制であつたため、その間賃金の支給を受けず、結局右一日あたりの平均賃金額に欠勤日数を乗じた八一万八五七一円の得べかりし利益を失つたことが認められる。

(三)  原審における証人城野鐘昊の証言及び第一審原告本人尋問の結果並びにこれにより成立を認める甲第八、第一九号証によれば、第一審原告は、本件事故による傷害の後遺症として、頸椎間板がくさび状に変成し第一〇胸椎が変形したため、昭和四八年一一月四日現在において運動障害が高度(前届一五二度、後屈一六六度、左屈七八度、右屈八三度、左回旋二〇度、右回旋二三度)となり、コルセツトの恒久的装用を余儀なくされ、筋力も著明に低下(背筋力四五キログラム、肩腕力押二〇キログラム、引二二キログラム、握力左二〇キログラム、右二八キログラム)し、全身脱力感、腰背部痛、頸部痛、右尺骨、坐骨神経領域にしびれ及び疼痛を残して症状は固定したものとされたことが認められる。

第一審原告は、右後遺障害の程度は自動車損害賠償保障法の定める障害等級六級に該当し、これにより第一審原告は労働能力の六七%を喪失したと主張するから、考えるに、右喪失率の主張は、労働基準監督局長昭和三二年七月二日通達に基づくものと思われ、必ずしも根拠のないものではないが、具体的喪失率の決定に当つては、一律に右基準を適用すべきではなく、諸般の事情を総合検討しなければならないことはいうまでもない。

そこで、第一審原告の労働能力がどの程度喪失したかについて検討するに、第一審原告の写真であることにつき当事者間に争いがなく、当審証人木村淑子の証言及び弁論の全趣旨により撮影年月日が昭和五二年二月四日項であることが認められる乙第二五号証の一、二、原審証人大塩直文及び右木村証人の各証言、原審及び当審における第一審原告本人尋問の結果ならびに当審における鑑定の結果によれば、次の事実が認められる。すなわち、第一審原告の昭和五二年七月現在における頂部痛と右上腕のしびれは、頸椎部の加齢的変化(変形性背椎症)が既存していたうえに、本件事故による外傷が誘因となつて発症をみたものであり、前記障害等級一二級一二号に該当し、胸腰部痛及び右第一〇胸髄神経痕支配域の痛覚過敏は、第一〇胸椎圧迫骨折とそれによる後彎形成から派生した症状であつて、一一級五号に該当し、右大腿のしびれは、外傷による後遺症とは考えにくく、たとえ外傷性としても、下肢腱反射の低下や筋萎縮を認めないため、一四級にしか該当せず、以上の各後遺症状は永久的に存続する見込みであること、第一審原告は、店頭で顧客と接する業務に就くことは可能であり、自動車運転も、道路が良好であれば可能であり、また重量物の運搬は困難であるが、現に製造加工中の注射針の包み二個(合計五〇〇〇本入)を両手に持つて運搬することは可能であることが認められる。右事実によれば、第一審原告は軽易な労務に服することは十分可能であり、その労働能力の喪失割合は四五%程度と認めるのが相当である。

ところで、原審における第一審原告本人尋問の結果により成立を認める甲第一三号証によれば、第一審原告は、本件事故前の昭和四七年一月一日から同年九月一三日までの二五七日間に六四万五、三九五円の賃金を得ていたことが認められるから、一日間には二、五一一円、一年間には平均して九一万七、一四二円(平年には九一万六、五一五円、閏年には九一万九、〇二六円)の収入を得ることが可能であり、また、前掲甲第八号証によれば、第一審原告は、前記会社欠勤の最終日である昭和四八年一一月四日当時三九歳であつたことが認められるから、就労可能期間を六七歳までとすれば、その後二八年間は毎年同額の収入を得ることが可能であつたこととなる。しかるに、第一審原告は、本件事故により労働能力の四五%を失つたものであるから、右期間中毎年右年収額九一万七、一四二円の四五%に相当する得べかりし利益を失うものというべく、ホフマン式複式算定法により年五分の中間利息を控除した現価を算出すると、次の算式により七一〇万七、三八七円(円未満切捨)となる。

917,142円×45/100×17.2211=7,107,387円

(17.2211はホフマン式複式算定法による28年の係数)

なお、第一審原告は、本件事故による逸失利益を算定するにあたつては、最新の賃金センセスを基礎とすべきであるというが、第一審原告は本件事故当時給料所得者(有職者)であつたのであるから、同人が現実に蒙つた損害すなわち逸失利益は、特段の事情のないかぎり、本件事故前の収入を基礎として将来の収入見込額を算定すべきであり、したがつて、第一審原告の主張は理由がない。

第一審被告らは、第一審原告は現在本件事故にあう前よりも多額の収入を得ているから、逸失利益はない筈であると主張するが、右主張を認めるに足りる証拠はなく、かえつて、当審における証人木村淑子の証言及び第一審原告本人尋問の結果によれば、第一審原告は、現在注射針製造加工をしているが、妻淑子と共に働いても、さきに立美電機商会に勤務していた当時と同程度の収入しかあげていないことが認められるから、右主張もまた理由がない。

(四)  本件事故による傷害及び後遺障害により第一審原告の蒙つた精神的苦痛に対する慰藉料額は、前記各事情を考慮し、三五〇万円をもつて相当と認める。

4  第一審被告らは、本件傷害はもともと軽微なものであり、第一審原告の受けた前記各治療はいずれもいわゆる過剰診療であつたと主張する。そこで、前記各医院の診療について検討する。前示のとおり、第一審原告は、本件事故後直ちに入院せず、事故から三日目に入院したのであるが、前掲甲第二号証、原審における証人木村淑子の証言及び第一審原告本人尋問の結果によれば、第一審原告は、事故後直ちに大田原赤十字病院に運び込まれたが、病室が満室で入院することができず、自動車で自宅に運ばれ、翌日専門医の往診が得られなかつたため、専門外の医師の診察を受け、同医師の勧めでその翌日川上外科を訪れ、腰背部挫傷兼第一〇胸椎圧迫骨折との診断を受け、即日入院したことが認められる。してみれば、第一審原告が事故後直ちに入院しなかつたことをもつてその傷害が軽微であつたものとすることはできない。次に、川上外科における診療については、これが過剰診療であることを窺わせる事実はこれを見出だすことはできない。大塩整形外科医院の診療については、前掲甲第四号証によれば、川上外科において、第一審原告の第一〇胸椎圧迫骨折の傷害は昭和四八年二月二五日治癒した旨の診断をしたことが認められるので、治癒後の診療ではないかとの疑いがないでもない。しかしながら、前掲大塩証人の証言及び第一審原告本人尋問の結果によれば、第一審原告は、川上外科に入院中、同外科の診療に満足することができず、外出許可を得て、大塩整形外科医院に通院し、同医院から頸椎部挫傷等の診察を受け、同医院に転医することとしたことが認められる。してみれば、第一〇胸椎圧迫骨折が治癒されたとしても、その後の診療は頸椎部捻挫等の別異の傷害についてのものであるから、これをもつて過剰診療とみることはできない。なお、頸椎部捻挫等の傷害は、当初川上外科における診療段階においては発見されていなかつたことが右大塩証人及び第一審原告本人尋問の結果により認められるから、右傷害は本件事故と因果関係がないものと疑う余地がないでもない。しかしながら、前記大塩証人の証言によれば、この種の症状は事故の数か月後に発生することもありうることが認められるから、本件事故以外に右頸椎部捻挫の原因行為が存在した形跡の認められない本件においては、右傷害は本件事故を原因とするものとみるべきである。最後に、城野外科への転医については、前掲大塩証人の証言によれば、大塩整形外科医院の医師は、第一審原告の傷害は、同人が傷害に立ち向う気力を有し、背筋の運動をするなどして、機能回復の訓練をするならば、必ずしも入院治療の必要はないものとして同人を退院させたものであつて、同人の症状を治癒して苦痛を脱したことを理由とするものではなかつたことが認められるのであるから、右退院後に第一審原告が再度医師を訪れて苦痛の除去を求めたとしても、このことをもつて過剰診療を受けたものということはできない。したがつて、第一審原告の城野外科における診療についても、これを過剰診療とすることはできない。

また、第一審原告の前記後遺障害が心因性かまたは仮病である旨の主張もこれを認めるに足りる証拠はない。

なお、第一審被告らは、治療費については、立美電機商会との間で、すべてこれを自動車損害賠償保障法による保険金で賄い、第一審被告らにはこれを負担させない旨の示談が成立していたというが、当審における第一審被告田中兼第一審被告会社代表者本人尋問の結果中、右主張にそう部分はこれを措信しがたく、ほかに右主張を認めるに足りる証拠はない。

5  第一審被告らは、第一審原告を原告車(竹内照彦運転の小型貨物自動車)の保有者である有限会社立美電機商会の代理監督者であること、第一審原告が右会社の代表取締役木村忠雄を通じ、又はみずから直接、原告車の運転者竹内に対し、自動車運転の安全教育を施さなかつたこと及び第一審原告が右会社の業務執行中の原告車に同乗するにあたり、みずから自動車運転免許を有しながら、本件事故発生の原因となつた右竹内の過失を看過したことを主たる理由として、民法第七一五条第二項ないし有限会社法第三〇条の三の立法趣旨に基づき、第一審原告自身に過失ありとし、又は右竹内の過失を被害者側の過失として把握し、過失相殺を主張する。しかしながら、第一審原告が登記簿上右会社の取締役として記載されていることは、当事者間に争いがないけれども、さらに進んで、第一審原告が右会社の代理監督者であることを認めるに足りる証拠はないこと、取締役を会社の従業員に対し自動車の安全運転教育を施さなかつたからといつて、そのことから直ちに職務を行なうにつき悪意又は重大な過失があつたとはいい難いこと、一般に自動車運転免許を有する取締役が会社の業務の執行として自動車運転をする従業員の自動車に同乗したからといつて、右取締役には、走行中絶えず交通の状況に注意を払い、運転者に対して適切な運転上の指示を与えて、事故の発生を未然に防止するための運転をするよう指導をするまでの注意義務を課せられているものとは考えられないこと等からみて、原告車の運転者である右竹内に過失があつたとしても、これにより、第一審原告に過失ありとし、また右竹内の過失を第一審原告の過失と同視して、第一審原告の損害額の算定につきこれを斟酌することはできないものというべきである。

6  第一審原告を本代事故による損害のうちすでに合計五九四万四、四一〇円につきその填補を受けたことは、当事者間に争いがない。第一審被告らは、第一審原告の治療費につき全額その支払いを了したというが、右争いない金額(治療費については第一審被告らから四一万三、八一〇円、有限会社立美電機商会から七〇万七、四六〇円)を超えて治療費が支払われたことを認めるに足りる証拠はない(但し、自動車損害賠償保障法による保険金の一部を治療費充当分として支払われたことは別問題である。)。

7  原審における第一審原告本人尋問の結果によれば、第一審原告は、弁護士に対し本件訴訟の提起遂行を委任し、その報酬として判決時に訴額の九%を支払う旨を約定したことが認められるが、本件事故に基づく損害として第一審被告らに負担させるべき金額は、右のうち六五万円をもつて相当と認める。

第一審被告らは、本件損害賠償については話し合いにより解決し得たものであり、訴訟に及ぶ必要はなかつたのであるから、第一審原告が本件につき弁護士費用を請求することは許されないというが、当審における木村淑子の証言及び第一審原告本人尋問の結果によれば、本件損害賠償につき、立美電機商会側は一応の誠意を示していたものの、第一審被告らは、第一審原告もしくは同人を代理する妻淑子から第一審原告の城野外科退院後話し合いをするよう申入れを受けながら、これに応じなかつたため、第一審原告はやむなく弁護士古屋俊雄に委任して本件訴訟を提起するにいたつたことが認められるから、右主張は理由がない。

8  次に、第一審被告らは、第一審原告が立美電機商会に対して同商会がすでに支出ずみの分を超える損害賠償請求を放棄しているから、第一審原告としては自己の負担部分についてのみ責に任ずればよいというから、考えるに、原審証人木村淑子の証言中には、右主張にそう部分があるが、右部分は、必ずしも同人の真意を述べたものとは認めがたく、かえつて、当審における同証人の証言及び第一審原告本人尋問の結果によれば、立美電機商会の代表取締役木村忠雄は第一審原告の兄であり、本件事故による損害賠償について一応の誠意を示しているため、第一審原告としては、同商会に対し、これ以上裁判までして争いたくないとの気持から、同商会に対して損害賠償請求訴訟を提起してはいないが、同商会と第一審被告らとがよく話し合つて解決してもらいたいと望んでいるのであつて、同商会に対する請求を放棄したわけではないことが明らかであるから、右主張もまた理由がない。

二  以上の次第であるから、第一審被告らは各自第一審原告に対し前示損害額からすでに填補を受けた分を控除した分合計七七一万六、七四八円及び右金額から前記弁護士費用を控除した七〇六万六、七四八円に対する本訴状送達の翌日であること記録上明らかな昭和四九年一〇月二七日から支払いずみにいたるまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があるものというべく、第一審原告の本訴請求は、第一審被告らに対し右金額の支払を求める限度においてこれを認容しうるが、その余は理由がないから、これを棄却すべきであり、これと異なる原判決は一部失当であるから、民事訴訟法第三八六条、第三八四条に従い、右の限度において原判決を変更し、本件付帯控訴は、理由がないから、同法第三八四条により、これを棄却し、訴訟費用の負担につき、同法第九六条、第八九条、第九二条、第九三条、仮執行宣言につき、同法第一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 安藤覚 森綱郎 奈良次郎)

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